為替相場の決定要因

2018年12月12日

為替相場の決定要因には、基本需要と供給で決定しますが、いくつかの理論や経験則というものがあります。需要と供給の関係に大きく影響を与えるのは、景気や金利、国際収支といった、経済の基礎的な要因です。経済の基礎といってもさまざまな要素があり、この要素を「ファンダメンタルズ」と呼んでいます。つまり、経済の基礎的諸条件であるさまざまなファンダメンタルズ要因によって、為替相場(為替レート)の動向が変わっていくということです。ただ、ファンダメンタルズ要因によってのみ為替相場が決定するものではありません。どういった要因が為替相場に影響するのか見ていきましょう。

ファンダメンタルズ

景気動向

景気が良い国の通貨は、株価や金利上昇への期待感から買われ上昇する傾向があります。逆に景気が悪い国からは資本や資産が逃避するため、売られやすくなります。そのため、景気動向に関連する経済指標の発表は為替相場を動かす材料となります。特にアメリカの雇用統計やGDP(国内総生産)などの重要指標は注目度が高く、相場に大きな影響を与えます。

金利・物価動向

お金は金利が高い国に流れる傾向があり、金利が高い国の通貨は買われ上昇する傾向があります。金利は国内の景気や物価と密接に関係しており、例えば、景気が良くなって物価の上昇が強くなりインフレの傾向が出てくると中央銀行は金利を引き上げます。また、世界経済の中心である米国の金融政策を決定するFOMC(連邦公開市場委員会)の声明と議事録は特に注目を集めます。
金利差から為替水準を予測する方法として、単純に金利差を見る方法や2国間の金融資産の保有高から為替の需給関係を推測するポートフォリオ・アプローチなどもあります。最近では、イールドカーブの形状から需給関係を予想するレポートがよく見られます。

購買力平価

理論的に全く貿易障壁のない世界を想定すると、そこでは国が異なっても、同じ製品の価格は一つであるという「一物一価の法則」が成り立ちます。この法則が成り立つ時の二国間の為替相場を購買力平価と言います。
例えば全く同じ商品がアメリカと日本で売られており、それらの値段がアメリカで1ドル、日本では120円であったとしたら、1ドル=120円になると考える説です。英エコノミスト誌が発表しているビックマック指数などが有名です。また、スターバックスのトールラテ指数などもあります。
http://www.economist.com/content/big-mac-index

購買力平価のうち、上記のように、現時点で異なる国の間で同じ製品を同じ価格で購入できる水準として算出されるものを「絶対的購買力平価」と言います。また、過去の内外不均衡が十分小さかった一時点を起点として、その後の当該国間のインフレ格差から時系列的に物価を均衡させる為替相場を算出するものを「相対的購買力平価」と言います。この際、消費者物価指数、卸売物価指数、輸出物価指数を使った分析があります。各種物価動向を反映した理論為替価値は(財)国際通貨研究所が発表しています。

(財)国際通貨研究所のアドレス
https://www.iima.or.jp/

購買力平価のアドレス
https://www.iima.or.jp/research/ppp/index.html

貿易収支及び国際収支

貿易収支は実需の為替需給に影響します。例えば米国の景気が良くなり、日本から米国への輸出が増えたとします。日本の輸出企業は米国企業にモノを売った代金を、最終的には円で受け取らなければなりません。ドルを持っていても日本国内では仕入れの代金や従業員への給料を払えないからです。ですから米国企業がドルで代金を支払った場合は、ドルを受け取った日本企業がそれを円に替えます。米国企業に円で支払ってもらう場合でも、相手企業があらかじめドルを売って円を手に入れておかなければなりません。このため輸出が輸入を上回り、日本の貿易黒字が増える局面では円の需要は増え、逆にドルは売られて供給が増えます。相場は円高・ドル安に動きやすくなります。
また生命保険会社や銀行などの「機関投資家」は、私たちから預かったお金を運用して増やすために、国境を越えて株式や債券を売買します。例えば日本の金利より欧米の金利が高ければ、欧米の国債や社債を買います。このとき、貿易でモノが売り買いされるのと同じで、ドルを手に入れるために円を売ることになり、円安の要因になります。
貿易収支やサービス収支からなる経常収支や資本収支によって発生する実需は、為替変動の大きな要因となります。例えば、日本の経常収支が黒字だと、受け取った外貨を自国通貨に換える必要が出てくるので円高傾向になります。同様に資本収支において、資金流入のほうが多い「流入超」の状態だと自国通貨が買われます。

通貨供給量

国の中央銀行(日本では日本銀行)は、物価や金融を安定させるため、世の中に出回るお金の量を調節します。これを金融政策の中でも量的金融政策と呼びます。リーマン・ショックの後、米国の中央銀行にあたる米連邦準備理事会(FRB)がドルの供給を増やしましたが、その時一般にドルは安く(円高に)なりました。また欧州債務危機の際には、ECBが大規模な量的金融緩和を実施し、大量に通貨供給量を増やしました。こうした各国中央銀行の量的金政策も為替相場に影響を与えます。

為替介入

金融当局は為替レートの急激な変動を抑制するため、または過度な通貨高、通貨安を是正するために為替介入を行うことがあります。日本では財務省の命令によって日銀が行い、その額は数兆円規模にのぼるため為替相場を動かす大きな要因となります。また、数カ国が連携して行う協調介入は為替相場の流れを大きく変えることもあります。

相場参加者の思惑

テクニカル要因

為替市場に参加している投資家は、ほとんどのケースにおいてチャートを見ながらトレードしています。多くの投資家が同じようなチャートを利用して売買することから、チャート上で市場参加者の思惑を推測しながら取引が行われることがあります。
為替市場ではサポートライン(支持線)やレジスタンスライン(抵抗線)は、多くの市場参加者に注目されています。そのため、ラインを突破すると短期的に相場を加速させることがあります。
また、ラウンドナンバーと呼ばれる100円や80円などの切りの良い数字の近辺には、大量の注文が交錯するため為替相場が大きく動く場合があります。

投機的要因

膨大な資金を投入して短期的に利ざやを稼ぐ取引を繰り返すのが、ヘッジファンドや機関投資家よって構成されている「投機筋」です。投資額が大きく、外国為替市場における取引量を占める割合が大きいとされていますが、実際の取引量は銀行などに比べると小さいものです。しかしながら、ストップ・オーダーが入りやすいところやテクニカル分析上重要なところで、相場に参入してくることが多く、短期的な為替相場は投機筋の影響が大きいといわれています。

地政学リスク

戦争やテロによって政情不安が起きると、投資活動や消費に悪影響が出ることを懸念され、その国の通貨は売られる傾向にあります。以前は「有事のドル買い」と呼ばれるように基軸通貨であるドルが買われることが多かったのですが、最近では永世中立国スイスのスイス・フランが資産の逃避先として買われるケースが目立ちます。日本円も有事の際に買われることが多くなっています。

美人投票論

実際に為替を取引している市場参加者が、貿易、投資のどちらの要因を重視しているかによって動きは違ってきます。例えば、円相場と日経平均株価の動きをグラフにして比べれば、似た動きをしている時期、反対の動きをしている時期、全く関係がない時期があることが分かるはずです。

このような市場の様子をケインズという経済学者は「美人投票」に例えました。ただし普通の美人コンテストと違って「だれが1番の美人に選ばれるかを当てるゲームです。このルールでは、参加者は「自分が美人だと思う女性」ではなく「みんなが美人だと思いそうな女性」に投票します。市場の参加者は常にほかの参加者の顔色をうかがい、「他人が何を美人の基準にしているか」を見極めようとしているといえます。

ですから、為替相場の予想をするときは、市場関係者たちが、今どんなニュースに注目しているのかを知っておく必要があります。円相場と他の経済指標の動きを比べ、為替の解説記事を毎日読んでおけば、それは見えてくるはずです。

安全通貨の日本円?

日本国内では市場全体にリスクが増加したときや地政学リスクが高まると、安全通貨である日本円が買われるとの報道がありますが、個人的には信用していません。むしろ本当の要因は、世界最大の債権国である日本の機関投資家や事業法人などが海外に保有している資産に対する為替リスクを縮小するため、ヘッジを行っていることで日本円が買われる大きな要因と考えています。これは日本銀行がゼロ金利政策を継続していることで、運用難に陥っている本邦機関投資家が大量に外国の金融資産の保有を増やしていることも影響しています。

政治的要因

各国政府要人の貿易摩擦についての政治的な発言などにより、為替相場が大きく変動することがあります。

原油価格との関係

原油を輸入に依存している国とっては、原油安はプラスの影響を及ぼします。例えば、原油をほとんど生産していない日本では、原油のコストが押さえられるので経済にはプラスの影響を及ぼすことが予想されます。産油国の経済にとってはマイナス、輸入する国にとってはプラス、というのが基本的な影響です。

しかし、あまりに急激な原油の暴落は、産油国の経済悪化を招き、それが世界全体の経済不安につながっていきかねません。そのため、急激な動きはパニックを引き起こしやすく、短期的にはリスクオフの動きが出やすいです。

リスクオフの局面では、資金は安全資産へ逃避する動きが起こります。特に現在はこちらの側面が意識されやすく、原油が下げ過ぎてリスクオフとなると、為替で逃避通貨であるドルや円が買われ、新興国通貨や資源国通貨などが売られる傾向が出やすくなっています。ちなみに、暴落のなかの戻りの局面では、これと逆の動き、資金の逃避が戻る動きが予想されます。

原油取引はドルで決済されるのが基本です。そのため、原油が売られるということはドルが買われるということなので、ドル高をもたらすという逆相関の関係があるといわれています。

ただし、急落時の暴落や価格低迷気が長く続くと、シェール・オイル産出で世界トップクラスの原油採掘国となったアメリカのシェール関連企業の経営不安やシェール・オイル産出量を削減に動くことがあります。一般に米国のシェール・オイル産出採算ラインは60ドル(最近は40ドルまで下がったという説もあります)といわれています。急激な価格下落はリスクオフの動きとなり、ドル安につながることもあります。

一般的に原油価格とユーロ/米ドルは相関性が高いということが言われています。つまり、原油安が起きればユーロ/米ドルは下がりやすく、原油高が起こればユーロ/米ドルは上がりやすいということになります。対ドルでもっとも取引が多いのがユーロなので、原油とドルの関係とちょうど逆の関係にあるということがいえます。

金価格との関係

1973年米国はブレトン=ウッズ体制を終了しました。ブレトン=ウッズ体制のもとでは米ドルの価値は金を裏付けとしていました。

一般的に金価格とドルは逆相関関係にあります。ドルが強くなると金が売られ、ドルが弱くなると金が買われます。金は、利息がつかないものの、長期的な価値の下落に強い「無国籍通貨」とも呼ばれ、有事の際に安全な実物資産であるのに対し、ペーパーマネーのドルは株式や債券など利回りが良いリスク資産との正の相関性が強く、リスクが高まった際に買われやすいからです。

為替や株式・債券市場で不安心理が支配すると、金が買われ、株などのリスク資産が堅調になると、金は売られて安くなる傾向があります。ドルへの信認が下落すれば、投資マネーは安全な金に流れ、金が高くなるということです。「金はドルの代替資産」「金は商品ではなく、一種の通貨だ」と言われるゆえんです。ただし、この逆相関関係が常に当てはまるわけでもありません。近年はこの逆相関性が若干弱くなってきているとの、データに基づく指摘もあります。最終的な金相場は、儲かる商品に集中する投機マネーが、どのような思惑でどこに流れているかに左右されています。

“短期金利の高い通貨は買われやすい”
“貿易黒字の通貨は買われやすい”
“一物一価の法則(購買力平価)”